本日取り上げる演奏家は、ソヴィエトの厳しい制約に苦しめられながらも、その類まれな感性とスケールの大きな演奏スタイルで、世界的な名声を得たヴァイオリニスト「オイストラフ」。
アビクラチャート
オイストラフについて
オイストラフは1908年にウクライナのオデッサで生まれます。
父はアマチュアのヴァイオリン弾き、母は合唱団の歌手という事もあり、5歳ころにヴァイオリン教育を開始。
オデッサ音楽院にてピョートル・ストリャルスキに師事しながら才能を開花させ、1928にはモスクワへ移住、政治的に苦しい時代を経験する事となります。
ヨーロッパでのコンクール優勝
モスクワ移住後は実力をつけ、1935年には第二回ソビエトコンクール優勝、同年のワルシャワで開催された第一回ヴィエニャフスキコンクールにて第二位(一位はフランスのジネット・ヌヴー)、1937年には第一回イザイ・コンクールにて第一位を獲得し、オイストラフの知名度が一気に広がりました。
これによりソ連だけでなく西側諸国でも同世代トップヴァイオリニストとして認知される事になります。
冷戦の影響
不運にも、第二次世界大戦の影響で、オイストラフがソ連から定期的に国外へ出られるようになるのは1950年代初頭になってから。せっかく有力なコンクールで名声を得るも、ソ連国外での演奏機会には多く恵まれず、十分なキャリアを積めない時期を経験することとなります。
戦時中は工場や病院などで慰問演奏を行い、スターリンから国家賞を授与されるんです。皮肉にもそうした功績から、勝手に祖国を代表する親善大使の扱いを受けます。
ヴィオラ演奏家として
オイストラフはヴァイオリンより一回り大きいヴィオラの名奏者でもありました。
体格や奏法がマッチしていたということもあるとは思いますが、オイストラフの弦の鳴らし方とコントロールされたヴィブラートはヴィオラでも遺憾無く発揮されます。
本来はアンサンブル向けの楽器である脇役ヴィオラが、オイストラフの演奏により、音の鳴りの輪郭がハッキリとし、主役に感じられる録音が幾つかあります。(後述のモーツァルト作品)
オイストラフの演奏の特徴
どっしりと体重の乗った奏法から繰り出される重工な音、弦を鳴らしきる卓越した右手感覚と、深みのあるヴィブラートによって、曲の出だしを聴くだけでオイストラフの音である事が分かります。
個人的にはスタジオ録音よりライブ音源の方が音色の抑揚や鬼気迫る演奏が聴けるように感じます。
オイストラフのオススメ名盤
チャイコフスキー作曲 ヴァイオリン協奏曲ニ長調 コンドラシン指揮 モスクワオーケストラ
日本人が奏でる演歌や三味線に味が乗るように、同郷の演奏家との相性は良いと感じます。
特にチャイコフスキー、コンドラシン、オイストラフの世紀の大巨匠の凄演は他のレコーディングでも聴く事の出来ない迫力です。
ハチャトリアン作曲 ヴァイオリン協奏曲ニ短調 ハチャトリアン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
クラシック初心者の方にはあまり馴染みのない名前ですが、グルジア出身。アルメニアの紙幣にも登場するほど現地では有名人です。コーカサス地方の民族音楽の影響を受け、印象的なメロディが特徴。
マイナーな曲ではあるのであまり比較対象が無いのが残念ですが、作曲家自身の指揮も相まって壮大な大地を思い起こさせる疾走感のある演奏が堪能できます。
モーツァルト作曲 協奏交響曲 変ホ長調K364 オイストラフ父子 コンドラシン指揮 モスクワオーケストラ
ヴァイオリニストのイゴールにヴァイオリンを、オイストラフ本人はヴィオラで臨んだ本曲。
オイストラフの演奏は通常よりもゆったりしたペースが多いが、一音の鳴りが完璧にコントロールされている事から違和感なく聴くことが出来ます。
その上息子との演奏ということもあり解釈の親和性が高く没入感を感じる名演です。ヴァイオリンよりもヴィオラに意識がいってしまうのも面白いです。
まとめ
いかがだったでしょうか。オイストラフは古典から現代まで幅広い録音レパートリーがあり、マスト名盤も多く存在します。
クラシック音楽を広く知ることのできる演奏家でもありますので、是非多くの録音を楽しむことをオススメします!
Best classical music for everyone.
画像参照: https://odessa-journal.com/odessa-philharmonic-will-be-named-after-david-oistrakh/
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