みなさん、こんにちわ。アビクラです。
本日取り上げる演奏家は、73年の類を見ない長期キャリアによって多大な名声を残し「ヴァイオリンの貴公子」と評されたレジェンドヴァイオリニスト「ミルシテイン」。
アビクラチャート
ミルシテインについて
1903年生まれ、ウクライナ出身のユダヤ系ヴァイオリニスト。
幼少期に母親の勧めでヴァイオリンを始め、11歳の時、著名な教育者であるアウアーに師事する。
1929年にアメリカデビューしニューヨークに移住するが、その後もヨーロッパを初め、世界を股にかけ演奏活動を行なった。
1986年の82歳の時、ストックホルムでのラストリサイタルをもって引退し、余生をロンドンで過ごしました。
ハイフェッツのライバル
ロシアの伝説的教育者「アウアー」との出会いがミルシテインのヴァイオリニスト人生に多大な影響を与えています。
門下には現代に名を残す巨匠ハイフェッツやザイデルなどもおり、アウアーの恐るべき要求レベルによって、生徒間に緊迫した対抗意識が芽生えたようです。
そんなハイフェッツが一足早くアメリカで旋風を巻き起したのち、ミルシテインもアメリカデビューを果たしました。
デビュー当初は「技術は完璧だが深みや精神性が足りない」などと批評されながらも、技術に裏付けされた独自の個性を打ち出し、20世紀を代表する名ヴァイオリニストのポジションを獲得しました。
ホロヴィッツとの友情
1918年に師であるアウアーがアメリカに亡命してしまった後、かろうじて生活費を稼ぎながら生き延びている時、のちに歴史的なピアニストとして名を刻むホロヴィッツと出会います。
二人はすぐに意気投合し、一緒に演奏活動をおこなっています。
パリに留まっている時期には、同じ亡命仲間であるチェリスト「ピアティゴルスキー」と結成した三銃士トリオとして活動をしているのですが、この豪華すぎるメンツの録音は残念ながら残っていません。
音楽に対して貪欲な姿勢
ミルシテインは演奏家でありながらも、編曲やカデンツァと呼ばれる独自のアドリブ部分の作曲を多く残しています。
「演奏レパートリーはヴァイオリンだけでは物足りない」「実験をしてテクニックを磨きたい」ということで、ショパンの夜想曲第二十番やリストのコンソレーション第三番、また17世紀の怪物ヴァイオリニスト「パガニーニ」へのオマージュ作品として代表作のパガニーニアーナを残しています。
特にブラームスやベートーベンのヴァイオリンコンチェルトのカデンツァも有名です。
ミルシテインの演奏の特徴
非の打ちどころのない完璧な演奏技巧
練習の虫と呼ばれ正確無比なフィンガリング、無駄のないボーイングは他の追随を許しません。
一方でテクニックを全面に押し出すことにはこと消極的であり、そうしたスタイルによって音楽本来が持つ音の凄みが胸に迫る印象を覚えます。
特に1986年にラストリサイタルで引退する83歳まで常に最高水準の演奏技術を誇り、引退の年齢まで全くと言って良いほど演奏技巧に劣化が見られなかったことは特筆すべき点です。
凛とした透明感に溢れた音
出身がアウアー門下ということが影響してか、ハイフェッツのような比較的速い運弓が特徴。
またイザイという名ヴァイオリニストに師事経験から、優美で透明感のある音楽で知られるフランコ・ベルギー楽派の影響も受けていると思われます。
クリアで凛としたミルシテインサウンドは、筋肉に無駄な負担や緊張感がない、どこまでも自然な奏法から産み出されています。
無駄を排した演奏スタイル
同じメロディを演奏するにしてもどの指を使うのか、どの運弓で音を出すかを考えるフレージングという言葉があります。
譜面には表記のないフレージングやボーイングによって演奏家独自の個性や音楽性を表現することも出来るのですが、ことミルシテインはフレージングに非常に熱心で、常に美しい演奏を追求して、アップデートをかけてきたことでも有名です。
ミルシテインは常に高い音楽美を貪欲に追求する姿勢を感じられる、稀有なヴァイオリニストでもあります。
ミルシティンの名演3選
バッハ:ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV1041
ミルシテインは膨大なレパートリーがある中でも特にバロック音楽に強い思い入れがありました。
若年からJ.S.バッハに興味があったものの師のアウアーがバッハ嫌い(?)で教えてくれず、仕方なく独学で音楽と向き合い、無駄な装飾を排した完璧なバッハの美的感覚を手中に治めました。
特に無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは人生において光をいっぱい浴びる機会を与えてくれたと自伝で述べているくらい有名な録音ですが、ヴァイオリン協奏曲のミルシテインのキレのある弓使いと鬼気迫る表現はどの演奏家の録音を差し置いても随一です。
ゴルトマルク : ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 op.28
ハンガリー出身のゴルトマルクはあまり聞き慣れない作曲家ではありますが、聴き込んでみるとなんと美しいメロディ。
特に当曲はハイフェッツやパールマンなどの優れた名盤がありながらも、特にミルシテインによってこの曲が世の中に広まった功績があり、無双盤といって過言ではないでしょう。
落ち着いた演奏に垣間見る圧倒的な特に陶酔感に溢れる2楽章、痛快な技巧を活かし容易く弾き進める3楽章の満足度はお墨付きです。
パガニーニアーナ
上述のように多くの編曲を手掛けたミルシテインですが、こちらのパガニーニアーナは24のカプリースをベースに作曲されたオマージュ作品であり彼の代表作品です。
もともとはニューヨークのリサイタルの演目で10分程度の小品が必要だったために作曲されたと言われていますが、それにしてもパガニーニ起点の超絶技巧のオンパレードをいとも涼しい顔して弾き進めるミルシテインのレベルの高さが窺い知れます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
完璧な技術と凛とした音によってヴァイオリニストの貴公子と言わしめたミルシテイン。
回顧録で「私は神童でも努力家でもなく、元気の良いサッカー少年だった」と謙遜していますが、
練習の虫と言われるほど演奏技術を磨き、突出した美的感覚によって人の心を震わせる天才だったことが、ミルシテインを唯一無二のヴァイオリニストに導いたと思います。
是非、ミルシテインの演奏を聴いてみてくださいね。
good classical music for your lifestyle.
画像参照 : https://www.benningviolins.com/the-violins-of-nathan-milstein.html
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